徳洲会病院にて臨床が行われています。
2008年頃の話
レストア腎移植が問題になった時、
委員会が立ち上げられました。
その委員会の中で唯一中立な立場であった医師の方がおられます。
元藤田医科大学医学部の堤元教授です。
その先生の講演をきかせて頂いた時、
1通のメールをしました。
そしたら、わざわざ返事もくださり、
しかも先生の論文のファイルまで返信してくれました。
レストア腎について自分なりに調べた時、
これが有効な手段だと思ったのですが、
堤先生の論文を拝見して有効な手段だと再認識させられました。
すごく、詳細に、しかも、完結に書かれてますのでよろしかったらご覧ください。
内容紹介
宇和島という田舎町で万波誠医師を中心とする“瀬戸内グループ”によって発明された
「病腎(レストア腎)移植」。
日本移植学会や厚生労働省は原則禁止を強く訴えるが、
果たしてその動きが日本の移植医療の発展につながるのか、
腎移植を心待ちにする透析患者のためになるのか。
2006年末、宇和島徳洲会病院の万波「病腎」移植に対する専門委員会のメンバーに指名された筆者は、専門委員会の結論に大きな疑問を感じた。
診療録の通覧、病理標本のチェック、腎癌治療実態に関する調査、患者さんを含む関係各位との交流などが許された病理医として、自由な立場で第三者的に発言できる、いやしなくてはならない医療関係者として、そしてこの問題に深く関与した専門家として、最近の世界の動向をレビューしつつ、レストア腎推進の立場から私見を述べさせてもらいたい。
日本の腎移植の現状
わが国における腎移植は、年間1,000例ほどに過ぎず、他の先進諸国に比べて著しく少ない。約8割が家族からの“献腎”による生体腎移植で、死体腎移植や脳死腎移植は合わせて150~200例程度である。
1) 世界的には死体腎・脳死腎移植が標準治療であり、日本の実情は明らかに異状である。フィリピンや中国で腎移植を受ける日本人が年間100人を超えているという。
一方、血液透析中の慢性腎不全患者は27万人に達し、高齢者の糖尿病性腎症を中心に毎年1万人単位でその数が増している。死体腎移植希望登録者は現在、11,500人あまり。死体腎移植までの待ち時間は平均17年という信じられない数字となっている(北欧は半年、米国は3~5年)。
しかも、登録者は登録料30,000円のほか、
毎年10,000円の登録料を支払い続けねばならない。
慢性血液透析者の5年生存率は60%、
10年生存率は40%。
一方、腎移植者の10年生存率は80%に達する。
レストア腎移植の歴史
万波誠医師を中心とする“瀬戸内グループ”による「病腎移植」の記録上の第一例は1991年1月に呉共済病院で行われた。
それ以来2006年9月までに計42例が実施されている。
2-4) ドナー(計38人)の内訳
非腫瘍性腎疾患18(腎動脈瘤6,尿管狭窄4,尿管壊死1,骨盤腎1,慢性後腹膜炎1,腎膿瘍1、難治性ネフローゼ症候群4)、 良性腫瘍4(血管筋脂肪腫2,海綿状血管腫1,石灰化腎嚢胞1)、 悪性腫瘍16(腎細胞癌8,下部尿管癌8)である。
ネフローゼ症候群4例からは両側の腎が摘出され、計8人のレシピエントに移植された。
実はこれより前にも行われたようだが、
診療録が保存されていないために詳細不明である。
事実、1989年に万波医師の所属する宇和島市立病院から腎動静脈奇形を有する腎臓を用いた18例の移植が報告されている。
5)悪性腫瘍をもつドナー腎からの移植は、
1993年4月に市立宇和島病院ではじめて行われた。
右の下部尿管癌を持つ患者から摘出された腎臓が、病変部尿管を切離後に移植に用いられた。
このレストア腎を移植された患者は、癌の再発なく、4年2ヶ月生着中に脳梗塞で死亡した。
腎細胞癌を切除した腎臓を移植に使用した例は、やはり市立宇和島病院で1996年7月に行われた。直径1.4cmの病巣が切除され、残りの腎臓が移植に使用された。
この例では急性拒絶反応のため、2週間後に移植腎は摘出されたが、患者は血液透析により11年後の現在も生存中である。
4) オーストラリア、ブリスベン大学のNicol教授によって行われた小さな腎細胞癌を有する腎臓を利用した移植の第一例も1996年だった。
6)1993年から2006年までの足かけ14年間に行われた瀬戸内グループによる合計16件の担癌腎を利用したレストア腎移植は、たいへん残念なことに、学会誌等への報告がなされなかったため、社会的に客観的評価を受けるチャンスを逸した。この問題が表面化したのちの2007年になってようやく、Mitsuhataらの短報(小径腎細胞癌と下部尿管癌の切除腎を用いた腎移植)
7) に引き続いて、2008年にMannamiらのフルペーパーが発表されるに至った。
8) もう少し早く論文発表されていれば、事態は全く違った展開となっただろう。 Nicol教授による移植例は、2004年5月に米国サンフランシスコで開催された第99回アメリカ泌尿器科学会において口頭発表され、その学会抄録は「第99回米泌尿器科学会ハイライト集」
9) として邦訳されたが、広く注目されるに至らなかった。Nicolらによるレストア腎移植46例の論文は2008年の雑誌掲載が決定している。
10) 2007年には、米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校からも、小径腎細胞癌を部分切除した腎臓をドナー腎とした移植の成功例が症例報告されている。
11) 2005年には、米国の過去の移植片腫瘍登録事例(シンシナチ大学)がレビューされ、小径腎細胞癌(腫瘍径:0.5~4 cm)を有するドナー腎からの移植が14例(11個の生体腎と 3個の死体腎)みいだされている(平均フォローアップ期間69ヶ月で、再発例なし)。
12) 同じ論文で、著者らは2例のレストア腎移植を成功させていると述べている。このほかにも、結果的に担癌であった腎移植例(死体腎、生体腎)の報告は散発的に報告され、古くは1975年に英国と米国からの記載がある。検索できた範囲では、万波例、Nicol例(49例)を含めて、総計78例に達している。
13) 良性腫瘍をもつ腎臓を利用したレストア腎移植は、瀬戸内グループの4例を含めて、21例が記載されている。注目すべきは、3例の血管筋脂肪腫例で、移植片に残存腫瘍の再増殖を認めないと記載されている。
13)非腫瘍性腎疾患を有する腎臓をドナーとする移植としては、日本国内だけで計95例の記載がある。
13) うちわけは、腎動脈瘤32、動静脈奇形42、腎・尿管奇形・尿管狭窄11、腎血管の外傷5、腎動脈の線維筋性異形成5である。難治性ネフローゼ症候群の腎を移植に利用したのは瀬戸内グループの4例のみである。 このように、「病気のために摘出された腎臓を体外で修復して移植に用いる」という事例は、既に世界各地で散発的に実施されていたにもかかわらず、日本で「病腎移植」騒動が話題となるまで、国際的に認識されることがなかった。「摘出された病気の腎臓と移植に用いられた修復(レストア)された腎臓を区別する」考え方に乏しかったためである。
万波腎移植の特徴
瀬戸内グループが行った42例のレストア腎移植のうち、レシピエントの実に30例(71%)は2度目以降の腎移植例であるのはほとんど報道されない真実である。4,15) 4度目の移植例も複数含まれている。いいかえれば、一度は家族からの献腎移植を受け、移植片が慢性拒絶されたために血液透析に復帰していた患者が多いのだ。
しかも、ドナーの年齢が高い(半数が70歳以上)。
多くのレシピエントが、「病腎」でなければ二度と移植を受けられない立場にあった。現在の日本の腎移植医療では、二度目の移植のチャンスはほとんどないといって過言でない。
長期透析のため、職業につけず生活に困窮している患者が少なくない事実もまず報道されない
(一般に、透析患者の生活保護率は6%と一般平均値の3倍高く、独居率も高い)。
万波医師と患者が10年以上にわたる人間関係を築きあげている、そんな宇和島という地方都市で行われた地域医療の一こま。
一緒に釣りに行く友人が病院では患者だった。
“病腎”でもいいから、何としても移植を受けたい。どうしても血液透析を離脱して仕事をしたい。このような状況下での移植医療は、十分な説明による納得・同意がなければとうてい成立しえなかっただろう。16) そもそも、臓器移植が宇和島という片田舎で行われていること自体が例外的といえる。 通常、腎摘出の適応でない難治性ネフローゼ症候群例でも、同様の強固な医師患者関係があり、腎摘出を患者自身が強く希望したことを患者本人が証言している。17) 宇和島には腎臓内科専門医がいない。肺水腫を伴う高度の浮腫(体重が20 kg増加)を乗り切るには両側の腎摘しかなかったと万波氏はつぶやく。
そして、深い信頼関係を背景として、この患者が宇和島の地を離れて松山の大学病院を受診することはまずなかっただろう。ネフローゼ症候群のこの症例は、その後、親から献腎移植を受けたが拒絶され、結局、レストア腎移植のレシピエントともなったことは驚くべき現実である。
2005年、“ドミノ腎移植の経験”と題した本症例の地方会発表がなされている。18)瀬戸内グループの腎移植に関する手腕は、700例を超える実績を踏まえて、だれもが納得する最高級のレベルにある。癒着が強くて困難をきわめる3回目、4回目の腎移植を「敢行」できるブラックジャック移植医は数少ない。
「病腎」とは?
臓器の病変は2つの類型に分けられる。
病変が“局所的に”みられる場合と、
臓器外にある病因の影響が臓器全体に“びまん性”に現れる場合である。
前者には良性腫瘍や小さな腎細胞癌をもつ腎臓が、後者には免疫異常による糸球体腎炎やネフローゼ症候群が属する。
限局的で小さい病変をもつ臓器が全摘される場合、病変部を外科的に完全に切除(修復)すれば、残った臓器は「正常」に近いとみなせるだろう。
個体の免疫系が腎臓を攻撃して不調和を生じる場合、ある患者“全体”にとって病気がもたらされる臓器でも、別の個体に移す(移植する)と不調和が解消する場合がある。この2点が「レストア臓器移植」の病理学的論拠である。4,14)40歳以上の成人では、臓器は何らかの「病変」をもつのが普通(「正常」)であり、もし「病変のない臓器」に限って「健康な臓器」とよぶとするなら、中年以降にそのような状態の臓器を期待することはまずできないだろう。
近年、欧米ではドナー臓器の不足を解消する目的で、「extended criteria donor(拡張されたドナー基準)」が積極的に使用されつつある。3,19) 年間17,000の腎移植(多くが脳死移植)が行われ、平均待機時間が3~5年の米国でさえ、いかにドナーを増やすかが最重要の国家的課題なのである。
高血圧者、糖尿病患者、60歳以上の高齢者からの腎臓もドナーに使われつつあるし、クレアチニンが1.5 mg/dlを超えるドナー腎の場合は両側同時移植が試みられている。B型肝炎ウイルスやHIVキャリアの腎臓も、同じウイルスのキャリアに対して使われようとしている。血液型不適合やクロスマッチ陽性で移植が難しいカップル同士でドナーをチェンジして移植を行う努力やドナーに対する旅費・滞在費の援助する試みもなされている。そうした中、小さな腎細胞癌を有する腎臓から局所的な病変部を取り除いた「レストア腎」の再利用が、新しいパラダイムとして世界の移植医から前向きに評価されていることは紛れもない事実である。3,12)標準的な死体腎移植の場合を考えてみよう。ここでは、血圧低下の結果「ショック腎」(病理学的には急性尿細管壊死)となった“病的な”腎臓を移植に利用している。病気の腎臓が不適とするなら、死体腎移植そのものが成立しない可能性がある。 死体腎やネフローゼ腎は腎臓全体に“びまん性”に病変を有する「病腎」である。
この場合、腎病変を誘発した全身的要因を取り除くのが移植の重要な目的となる。
一方、腎腫瘍(良性腫瘍、腎細胞癌)や動脈瘤は腎臓の一部に“局所的な”病変を有する「病腎」といえる。
局所的病変の場合は、この部分を外科的に完全に取り除いたレストア腎は、理論的に、“病変のない”臓器とみなすことができる。 ちなみに、肝臓ではドミノ移植が市民権を得ている。20)
末梢神経へのアミロイド沈着を主徴とする家族性アミロイドーシスは、肝臓における異常プレアルブミンの産生を原因とする優性遺伝性疾患である。患者が治療として肝移植を受ける際に、疾患の原因となった病的な肝臓が別の患者(多くは肝硬変症)用の移植に用いられる。
異常プレアルブミンがアミロイド沈着をきたして症状を出すまでに、通常、20~30年程度の年月を要するからである。
小さな腎細胞癌を有する腎臓のレストア腎移植への利用
1.担癌腎を移植に利用すると癌が再発・転移するか 1997年に発表された「ペン論文」は、The Israel Penn International Transplant Tumor Registry における1988~1997年のデータをもとに、再発転移率117/270件(43%)、全身転移患者66名の死亡率67%と記載している。21) この論文では、ドナー由来の持ち込み癌(transferred cancer)とレシピエントに新たに発生した癌(de novo cancer)が区別されていない。その後の欧米の解析で、レシピエントの生じた癌の多くは、免疫抑制を受けたレシピエントの細胞由来の悪性腫瘍であることが判明している。19,22-26)
上述のごとく、担癌腎を利用したレストア腎移植例は計78例に達しているが、いまだ再発・転移例は1例も記録されていない27)
(Nicol例の1例で、ドナー腎における新たな小径腎癌の9年後の発生と部分切除が記載されている10))。
2.径4 cm以下の小径腎癌は部分切除が標準治療であるという移植学会見解に対する反論 筆者は4つの大学病院を含む14病院の実態(2004~2006年)を、病理医の協力を得て、病理診断標本に基づく調査をした。すべての腎切除例が病理診断に提出されるため、データは非常に正確である。データが大きく分散していたために中央値で判断すると、径4 cm以下の小径腎癌(T1a期)症例の83%が腎全摘されていた。16) この数字は、筆者の経験的な印象にぴったりと一致した。一部の大学病院では小径腎癌手術の大部分が部分切除だったが、泌尿器科講座教授の治療方針に依存していた(その教授が赴任した途端に部分切除が増えるのが通例)。市中病院では、腎全摘例が圧倒的に多い傾向がみられた。米国やオーストラリアの臨床集計でも、小径腎癌の9割程度が腎全摘されており、現状では腎部分切除が標準治療ではない。
28) 筆者がビギナー病理医のころ(30年ほど前)、1~2 cm程度の小さな腎腫瘍は、組織学的に腎細胞癌(明細胞癌)と全く区別できない場合でも、腎皮質腺腫(良性)と診断せよと教えられた(現在では当然、悪性=腎細胞癌と判断される)。小径腎細胞癌の転移・再発率はそれほど低いのである。
29)
3.小径腎癌に対する腎部分切除の今後の普及とレストア腎移植縮小手術のトレンドは、消化器癌や乳癌にとどまらず、腎癌手術にも及ぶことは間違いない。部分切除でも再発・転移のリスクが低いことが前提条件となるることはいうまでもない。28,29) 手術の場合の再発リスクが容認できるほど低いのなら、小径腎癌を取り除いて移植に利用するレストア腎の場合だけが高リスクと論じるのはどうにもおかしい。今後、小径腎癌が部分切除されるようになれば、当然、レストア腎移植に使える臓器の供給は減少するだろう(ちなみに、万波医師の小径腎細胞癌に対する治療は9割程度が部分切除なのである)。腎部分切除術は、腎全摘術に比べて、手術・麻酔時間が長く、出血、尿瘻や感染のリスクが高い。対側腎の機能が正常な場合、部分切除でなく、全摘を望む患者が少なくないこともまた現実である。こらからのち、そのような事例の担癌腎に加えて、腎全摘が標準であり続けるだろう下部尿管癌の腎臓(水腎症を伴うことが多い)がレストア腎の供給源となるであろう。ちなみに、腎全摘と腎部分切除の場合を比較した腎機能の長期予後および患者生存率をみると、腎部分切除のメリットが明らかにされている。30,31)
4.長期血液透析者に発生する腎細胞癌 長期に血液透析を続けると萎縮腎に嚢胞が多発し(後天性多嚢胞腎)、後天性多嚢胞腎から腎細胞癌が発生する点を忘れてはならない。32,33) 日本の統計では、初回スクリーニングで後天性多嚢胞腎の1.5%に腎細胞癌がみいだされ、毎年1,000人中3.4人が新たに癌になるとされている。10年間血液透析を受けると100人中3.4人が癌化するので、透析患者の実に1.5+3.4=4.9人が腎細胞癌を患うことになる。この数字は、移植された臓器から腎細胞癌が持ち込まれる確率よりはるかに高い。筆者は、透析腎に発生した腎細胞癌の全身転移による死亡例を剖検した経験がある。
5.脳死臓器移植に病理解剖を! ドナーのもつ悪性腫瘍のレシピエントへの持ち込みを危惧するのなら、欧州で標準的なように、日本の脳死臓器移植に際しても、ドナーの病理解剖を原則とすべきだろう。癌の有無は、多くの場合、肉眼的に解剖中に判断できる。これまでに日本で行われた脳死臓器移植例では病理解剖がほとんど行われていない。この点は、病理医として納得できない。
万波移植の成績とそこから推測される学術的側面
1)ドナーの年齢(万波移植ではドナーの約半数が70歳以上)を修正した長期腎生着率および生存率は死体腎移植と生体腎移植の中間に位置する好成績である。3,4,15) 移植臓器の第三の供給源として、十分な資格を備えている。
2)悪性腫瘍例16例のうち、癌の腎盂再発を認めたのは尿管癌(浸潤性尿路上皮癌)の1例のみである。4,16)
この例では、再発腫瘍の局所切除が行われ、結局、肺原発とみなされる扁平上皮癌で死亡している。尿路系に多発することの多い尿路上皮癌を含めて、再発リスクは予想外に低い。レシピエントの免疫系がドナー由来の癌細胞の再増殖を抑制する可能性がある。
3)瀬戸内グループの良性腫瘍例の1つ、石灰化嚢胞は術後に確定された最終病理診断であり、術前・術中は嚢胞化を伴う腎細胞癌が疑われていた。病理医が不在のため、術中迅速診断はできなかったが、たとえ迅速診断ができたとしても、確定診断できたかどうかは微妙である。血管筋脂肪腫の一例は、結節性硬化症を欠く両側多発例であり、ドナー腎には多発する小さな腫瘍性病変が残存していた。しかし、移植後に良性腫瘍の再増殖はみられていない。16)
4)尿管狭窄例では、当然ながら、高度の水腎症を併発し、しばしば尿路感染を繰り返している。重複尿管を合併した腎膿瘍例では、膿瘍を有する腎上極が切除されてレストアされた。こうした例でも、移植後に尿路感染は問題とならず、多くの腎臓がレシピエントで機能し続けている。移植腎の機能が保たれていれば、尿路腔内の病原体は洗い流されてしまうためであろう。みごとな経験則といえる。
5)難治性ネフローゼ症候群を呈した腎臓(微小変化群が主体と思われる)を他の個体に移植すると、腎は正常に機能し、蛋白尿が消失することをヒトで初めて証明した。ネフローゼ症候群の成因として、患者血清中のネフローゼ誘発因子の存在を裏づけたといえる。4,14) なお、1例のループス腎炎(活動期全身性エリテマトーデスの症例:ワイヤーループ病変を示し、軽度の腎機能障害を伴っていた)の腎臓は2個とも、さすがにレシピエント体内で機能しなかった。
6)ネフローゼ症候群の腎臓を移植されたレシピエント8例のうち2例に、造血器悪性腫瘍(悪性リンパ腫と骨髄異形成症候群)が合併し、直接死因となった点は示唆に富んでいる。「レストア腎」移植42件のレシピエントに悪性腫瘍を合併したのは、原発性肺癌1例と造血器悪性腫瘍2例のみであり、この2例が“免疫学的異常を背景とするネフローゼ症候群”を呈した腎臓を移植された症例に集中している。単なる偶然以上の可能性を考えたい。
レストア腎移植の日本の移植医療への貢献
広島県腫瘍組織登録データから推測すると、毎年6,660例の腎細胞癌が全国で手術されていると計算される。腫瘍径が4 cm以下のT1a腫瘍の推計値は3,210例、そのうち83%が腎全摘されるとするなら、レストア腎移植に使用可能な症例は2,664例にのぼる。半数が移植に使用できれば、1,000個を軽く超えるドナー腎の供給源となる。16) ちなみに、米国のデータでも、年間7,000例を超える小径腎癌の腎全摘手術例があると推計されている。28) 尿管癌手術(腎全摘が原則)の日本全国の推計数は2,220となり、このうちの1割程度が移植に使用可能だとすれば、200例あまりとなる。16)「レストア腎移植」が実施されると、以下のような波及効果が期待される。 まず、腎移植までの待機時間が著しく短縮される点が重要である。17年の待ち時間が数年以内に短縮されれば、現在1万1千人台にとどまっている移植希望者が増加するだろう。さらに、医療費削減効果も期待される。透析医療に比べて医療費が安くなるため、もし年間1,000例のレストア腎移植が行われ、移植腎が平均10年間機能すると仮定すれば(生体腎の平均生着年数17.9年、死体腎は11.3年)、透析関連医療費(現在、総額1兆2500億円に達している)の1.2%程度(年平均154億円)が削減されるだろう(堤試算)。16) こうして、移植までの待機時間が数年以内に短縮されれば、血液透析の在宅式持続腹膜透析(CAPD)への切り替えが促進されるだろう。日本のCAPD普及率が欧米に比べて明らかに低い(3.6%)1) 理由には、透析医療の収入の仕組み(血液透析の方が医療側の実入りが多い)に加えて、CAPDの継続耐用可能年数が平均6~7年であり、死体腎移植の待ち時間よりずっと短い点があげられる。生存率の向上に大いに貢献する腎移植は、今や、単なるquality of life向上が目的でなく、life-saving operationと位置づけられる点を再確認したい。 レシピエントの心理的負担の軽減も忘れてはならない重要なポイントである。家族からもらう健康な腎臓や死体からわざわざ取りだした腎臓でなく、病気によって治療上の必要性から摘出する腎臓が再利用されるからだ。ドナーの満足感・充足感も大いに期待される。骨髄移植ドナーと同様の心理状態であり、自分の臓器で他者を救えることに対する自然な感情である。 医療者にとっても、どうせ“捨てる”段取りの(いや、ホルマリン固定後に病理診断に提出する)腎臓を使うため、たとえ失敗しても気が楽である。移植腎は腸骨窩(側腹部)に植えるため、超音波検査などで腫瘍の再発のチェックがしやすく、異常が発見されたときに処置しやすい点もメリットの1つといえる。 病気の腎臓をとらねばならない人がいる。その“捨てる”腎臓をもらう人がいる。その間に気楽に移植手術ができる医師集団がいる。このリサイクル運動には、だれも損をしない「三方一両得」といえる関係が成立する。結果として、関係者がみな、腎移植について開放的にしゃべりだすようになるだろう。そうして、現在全く不十分な状態にとどまっている日本人の「献腎意識」が高揚することが期待される。
宇和島という田舎町で万波誠医師を中心とする“瀬戸内グループ”によって発明された
「病腎(レストア腎)移植」。
日本移植学会や厚生労働省は原則禁止を強く訴えるが、
果たしてその動きが日本の移植医療の発展につながるのか、
腎移植を心待ちにする透析患者のためになるのか。
2006年末、宇和島徳洲会病院の万波「病腎」移植に対する専門委員会のメンバーに指名された筆者は、専門委員会の結論に大きな疑問を感じた。
診療録の通覧、病理標本のチェック、腎癌治療実態に関する調査、患者さんを含む関係各位との交流などが許された病理医として、自由な立場で第三者的に発言できる、いやしなくてはならない医療関係者として、そしてこの問題に深く関与した専門家として、最近の世界の動向をレビューしつつ、レストア腎推進の立場から私見を述べさせてもらいたい。
日本の腎移植の現状
わが国における腎移植は、年間1,000例ほどに過ぎず、他の先進諸国に比べて著しく少ない。約8割が家族からの“献腎”による生体腎移植で、死体腎移植や脳死腎移植は合わせて150~200例程度である。
1) 世界的には死体腎・脳死腎移植が標準治療であり、日本の実情は明らかに異状である。フィリピンや中国で腎移植を受ける日本人が年間100人を超えているという。
一方、血液透析中の慢性腎不全患者は27万人に達し、高齢者の糖尿病性腎症を中心に毎年1万人単位でその数が増している。死体腎移植希望登録者は現在、11,500人あまり。死体腎移植までの待ち時間は平均17年という信じられない数字となっている(北欧は半年、米国は3~5年)。
しかも、登録者は登録料30,000円のほか、
毎年10,000円の登録料を支払い続けねばならない。
慢性血液透析者の5年生存率は60%、
10年生存率は40%。
一方、腎移植者の10年生存率は80%に達する。
レストア腎移植の歴史
万波誠医師を中心とする“瀬戸内グループ”による「病腎移植」の記録上の第一例は1991年1月に呉共済病院で行われた。
それ以来2006年9月までに計42例が実施されている。
2-4) ドナー(計38人)の内訳
非腫瘍性腎疾患18(腎動脈瘤6,尿管狭窄4,尿管壊死1,骨盤腎1,慢性後腹膜炎1,腎膿瘍1、難治性ネフローゼ症候群4)、 良性腫瘍4(血管筋脂肪腫2,海綿状血管腫1,石灰化腎嚢胞1)、 悪性腫瘍16(腎細胞癌8,下部尿管癌8)である。
ネフローゼ症候群4例からは両側の腎が摘出され、計8人のレシピエントに移植された。
実はこれより前にも行われたようだが、
診療録が保存されていないために詳細不明である。
事実、1989年に万波医師の所属する宇和島市立病院から腎動静脈奇形を有する腎臓を用いた18例の移植が報告されている。
5)悪性腫瘍をもつドナー腎からの移植は、
1993年4月に市立宇和島病院ではじめて行われた。
右の下部尿管癌を持つ患者から摘出された腎臓が、病変部尿管を切離後に移植に用いられた。
このレストア腎を移植された患者は、癌の再発なく、4年2ヶ月生着中に脳梗塞で死亡した。
腎細胞癌を切除した腎臓を移植に使用した例は、やはり市立宇和島病院で1996年7月に行われた。直径1.4cmの病巣が切除され、残りの腎臓が移植に使用された。
この例では急性拒絶反応のため、2週間後に移植腎は摘出されたが、患者は血液透析により11年後の現在も生存中である。
4) オーストラリア、ブリスベン大学のNicol教授によって行われた小さな腎細胞癌を有する腎臓を利用した移植の第一例も1996年だった。
6)1993年から2006年までの足かけ14年間に行われた瀬戸内グループによる合計16件の担癌腎を利用したレストア腎移植は、たいへん残念なことに、学会誌等への報告がなされなかったため、社会的に客観的評価を受けるチャンスを逸した。この問題が表面化したのちの2007年になってようやく、Mitsuhataらの短報(小径腎細胞癌と下部尿管癌の切除腎を用いた腎移植)
7) に引き続いて、2008年にMannamiらのフルペーパーが発表されるに至った。
8) もう少し早く論文発表されていれば、事態は全く違った展開となっただろう。 Nicol教授による移植例は、2004年5月に米国サンフランシスコで開催された第99回アメリカ泌尿器科学会において口頭発表され、その学会抄録は「第99回米泌尿器科学会ハイライト集」
9) として邦訳されたが、広く注目されるに至らなかった。Nicolらによるレストア腎移植46例の論文は2008年の雑誌掲載が決定している。
10) 2007年には、米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校からも、小径腎細胞癌を部分切除した腎臓をドナー腎とした移植の成功例が症例報告されている。
11) 2005年には、米国の過去の移植片腫瘍登録事例(シンシナチ大学)がレビューされ、小径腎細胞癌(腫瘍径:0.5~4 cm)を有するドナー腎からの移植が14例(11個の生体腎と 3個の死体腎)みいだされている(平均フォローアップ期間69ヶ月で、再発例なし)。
12) 同じ論文で、著者らは2例のレストア腎移植を成功させていると述べている。このほかにも、結果的に担癌であった腎移植例(死体腎、生体腎)の報告は散発的に報告され、古くは1975年に英国と米国からの記載がある。検索できた範囲では、万波例、Nicol例(49例)を含めて、総計78例に達している。
13) 良性腫瘍をもつ腎臓を利用したレストア腎移植は、瀬戸内グループの4例を含めて、21例が記載されている。注目すべきは、3例の血管筋脂肪腫例で、移植片に残存腫瘍の再増殖を認めないと記載されている。
13)非腫瘍性腎疾患を有する腎臓をドナーとする移植としては、日本国内だけで計95例の記載がある。
13) うちわけは、腎動脈瘤32、動静脈奇形42、腎・尿管奇形・尿管狭窄11、腎血管の外傷5、腎動脈の線維筋性異形成5である。難治性ネフローゼ症候群の腎を移植に利用したのは瀬戸内グループの4例のみである。 このように、「病気のために摘出された腎臓を体外で修復して移植に用いる」という事例は、既に世界各地で散発的に実施されていたにもかかわらず、日本で「病腎移植」騒動が話題となるまで、国際的に認識されることがなかった。「摘出された病気の腎臓と移植に用いられた修復(レストア)された腎臓を区別する」考え方に乏しかったためである。
万波腎移植の特徴
瀬戸内グループが行った42例のレストア腎移植のうち、レシピエントの実に30例(71%)は2度目以降の腎移植例であるのはほとんど報道されない真実である。4,15) 4度目の移植例も複数含まれている。いいかえれば、一度は家族からの献腎移植を受け、移植片が慢性拒絶されたために血液透析に復帰していた患者が多いのだ。
しかも、ドナーの年齢が高い(半数が70歳以上)。
多くのレシピエントが、「病腎」でなければ二度と移植を受けられない立場にあった。現在の日本の腎移植医療では、二度目の移植のチャンスはほとんどないといって過言でない。
長期透析のため、職業につけず生活に困窮している患者が少なくない事実もまず報道されない
(一般に、透析患者の生活保護率は6%と一般平均値の3倍高く、独居率も高い)。
万波医師と患者が10年以上にわたる人間関係を築きあげている、そんな宇和島という地方都市で行われた地域医療の一こま。
一緒に釣りに行く友人が病院では患者だった。
“病腎”でもいいから、何としても移植を受けたい。どうしても血液透析を離脱して仕事をしたい。このような状況下での移植医療は、十分な説明による納得・同意がなければとうてい成立しえなかっただろう。16) そもそも、臓器移植が宇和島という片田舎で行われていること自体が例外的といえる。 通常、腎摘出の適応でない難治性ネフローゼ症候群例でも、同様の強固な医師患者関係があり、腎摘出を患者自身が強く希望したことを患者本人が証言している。17) 宇和島には腎臓内科専門医がいない。肺水腫を伴う高度の浮腫(体重が20 kg増加)を乗り切るには両側の腎摘しかなかったと万波氏はつぶやく。
そして、深い信頼関係を背景として、この患者が宇和島の地を離れて松山の大学病院を受診することはまずなかっただろう。ネフローゼ症候群のこの症例は、その後、親から献腎移植を受けたが拒絶され、結局、レストア腎移植のレシピエントともなったことは驚くべき現実である。
2005年、“ドミノ腎移植の経験”と題した本症例の地方会発表がなされている。18)瀬戸内グループの腎移植に関する手腕は、700例を超える実績を踏まえて、だれもが納得する最高級のレベルにある。癒着が強くて困難をきわめる3回目、4回目の腎移植を「敢行」できるブラックジャック移植医は数少ない。
「病腎」とは?
臓器の病変は2つの類型に分けられる。
病変が“局所的に”みられる場合と、
臓器外にある病因の影響が臓器全体に“びまん性”に現れる場合である。
前者には良性腫瘍や小さな腎細胞癌をもつ腎臓が、後者には免疫異常による糸球体腎炎やネフローゼ症候群が属する。
限局的で小さい病変をもつ臓器が全摘される場合、病変部を外科的に完全に切除(修復)すれば、残った臓器は「正常」に近いとみなせるだろう。
個体の免疫系が腎臓を攻撃して不調和を生じる場合、ある患者“全体”にとって病気がもたらされる臓器でも、別の個体に移す(移植する)と不調和が解消する場合がある。この2点が「レストア臓器移植」の病理学的論拠である。4,14)40歳以上の成人では、臓器は何らかの「病変」をもつのが普通(「正常」)であり、もし「病変のない臓器」に限って「健康な臓器」とよぶとするなら、中年以降にそのような状態の臓器を期待することはまずできないだろう。
近年、欧米ではドナー臓器の不足を解消する目的で、「extended criteria donor(拡張されたドナー基準)」が積極的に使用されつつある。3,19) 年間17,000の腎移植(多くが脳死移植)が行われ、平均待機時間が3~5年の米国でさえ、いかにドナーを増やすかが最重要の国家的課題なのである。
高血圧者、糖尿病患者、60歳以上の高齢者からの腎臓もドナーに使われつつあるし、クレアチニンが1.5 mg/dlを超えるドナー腎の場合は両側同時移植が試みられている。B型肝炎ウイルスやHIVキャリアの腎臓も、同じウイルスのキャリアに対して使われようとしている。血液型不適合やクロスマッチ陽性で移植が難しいカップル同士でドナーをチェンジして移植を行う努力やドナーに対する旅費・滞在費の援助する試みもなされている。そうした中、小さな腎細胞癌を有する腎臓から局所的な病変部を取り除いた「レストア腎」の再利用が、新しいパラダイムとして世界の移植医から前向きに評価されていることは紛れもない事実である。3,12)標準的な死体腎移植の場合を考えてみよう。ここでは、血圧低下の結果「ショック腎」(病理学的には急性尿細管壊死)となった“病的な”腎臓を移植に利用している。病気の腎臓が不適とするなら、死体腎移植そのものが成立しない可能性がある。 死体腎やネフローゼ腎は腎臓全体に“びまん性”に病変を有する「病腎」である。
この場合、腎病変を誘発した全身的要因を取り除くのが移植の重要な目的となる。
一方、腎腫瘍(良性腫瘍、腎細胞癌)や動脈瘤は腎臓の一部に“局所的な”病変を有する「病腎」といえる。
局所的病変の場合は、この部分を外科的に完全に取り除いたレストア腎は、理論的に、“病変のない”臓器とみなすことができる。 ちなみに、肝臓ではドミノ移植が市民権を得ている。20)
末梢神経へのアミロイド沈着を主徴とする家族性アミロイドーシスは、肝臓における異常プレアルブミンの産生を原因とする優性遺伝性疾患である。患者が治療として肝移植を受ける際に、疾患の原因となった病的な肝臓が別の患者(多くは肝硬変症)用の移植に用いられる。
異常プレアルブミンがアミロイド沈着をきたして症状を出すまでに、通常、20~30年程度の年月を要するからである。
小さな腎細胞癌を有する腎臓のレストア腎移植への利用
1.担癌腎を移植に利用すると癌が再発・転移するか 1997年に発表された「ペン論文」は、The Israel Penn International Transplant Tumor Registry における1988~1997年のデータをもとに、再発転移率117/270件(43%)、全身転移患者66名の死亡率67%と記載している。21) この論文では、ドナー由来の持ち込み癌(transferred cancer)とレシピエントに新たに発生した癌(de novo cancer)が区別されていない。その後の欧米の解析で、レシピエントの生じた癌の多くは、免疫抑制を受けたレシピエントの細胞由来の悪性腫瘍であることが判明している。19,22-26)
上述のごとく、担癌腎を利用したレストア腎移植例は計78例に達しているが、いまだ再発・転移例は1例も記録されていない27)
(Nicol例の1例で、ドナー腎における新たな小径腎癌の9年後の発生と部分切除が記載されている10))。
2.径4 cm以下の小径腎癌は部分切除が標準治療であるという移植学会見解に対する反論 筆者は4つの大学病院を含む14病院の実態(2004~2006年)を、病理医の協力を得て、病理診断標本に基づく調査をした。すべての腎切除例が病理診断に提出されるため、データは非常に正確である。データが大きく分散していたために中央値で判断すると、径4 cm以下の小径腎癌(T1a期)症例の83%が腎全摘されていた。16) この数字は、筆者の経験的な印象にぴったりと一致した。一部の大学病院では小径腎癌手術の大部分が部分切除だったが、泌尿器科講座教授の治療方針に依存していた(その教授が赴任した途端に部分切除が増えるのが通例)。市中病院では、腎全摘例が圧倒的に多い傾向がみられた。米国やオーストラリアの臨床集計でも、小径腎癌の9割程度が腎全摘されており、現状では腎部分切除が標準治療ではない。
28) 筆者がビギナー病理医のころ(30年ほど前)、1~2 cm程度の小さな腎腫瘍は、組織学的に腎細胞癌(明細胞癌)と全く区別できない場合でも、腎皮質腺腫(良性)と診断せよと教えられた(現在では当然、悪性=腎細胞癌と判断される)。小径腎細胞癌の転移・再発率はそれほど低いのである。
29)
3.小径腎癌に対する腎部分切除の今後の普及とレストア腎移植縮小手術のトレンドは、消化器癌や乳癌にとどまらず、腎癌手術にも及ぶことは間違いない。部分切除でも再発・転移のリスクが低いことが前提条件となるることはいうまでもない。28,29) 手術の場合の再発リスクが容認できるほど低いのなら、小径腎癌を取り除いて移植に利用するレストア腎の場合だけが高リスクと論じるのはどうにもおかしい。今後、小径腎癌が部分切除されるようになれば、当然、レストア腎移植に使える臓器の供給は減少するだろう(ちなみに、万波医師の小径腎細胞癌に対する治療は9割程度が部分切除なのである)。腎部分切除術は、腎全摘術に比べて、手術・麻酔時間が長く、出血、尿瘻や感染のリスクが高い。対側腎の機能が正常な場合、部分切除でなく、全摘を望む患者が少なくないこともまた現実である。こらからのち、そのような事例の担癌腎に加えて、腎全摘が標準であり続けるだろう下部尿管癌の腎臓(水腎症を伴うことが多い)がレストア腎の供給源となるであろう。ちなみに、腎全摘と腎部分切除の場合を比較した腎機能の長期予後および患者生存率をみると、腎部分切除のメリットが明らかにされている。30,31)
4.長期血液透析者に発生する腎細胞癌 長期に血液透析を続けると萎縮腎に嚢胞が多発し(後天性多嚢胞腎)、後天性多嚢胞腎から腎細胞癌が発生する点を忘れてはならない。32,33) 日本の統計では、初回スクリーニングで後天性多嚢胞腎の1.5%に腎細胞癌がみいだされ、毎年1,000人中3.4人が新たに癌になるとされている。10年間血液透析を受けると100人中3.4人が癌化するので、透析患者の実に1.5+3.4=4.9人が腎細胞癌を患うことになる。この数字は、移植された臓器から腎細胞癌が持ち込まれる確率よりはるかに高い。筆者は、透析腎に発生した腎細胞癌の全身転移による死亡例を剖検した経験がある。
5.脳死臓器移植に病理解剖を! ドナーのもつ悪性腫瘍のレシピエントへの持ち込みを危惧するのなら、欧州で標準的なように、日本の脳死臓器移植に際しても、ドナーの病理解剖を原則とすべきだろう。癌の有無は、多くの場合、肉眼的に解剖中に判断できる。これまでに日本で行われた脳死臓器移植例では病理解剖がほとんど行われていない。この点は、病理医として納得できない。
万波移植の成績とそこから推測される学術的側面
1)ドナーの年齢(万波移植ではドナーの約半数が70歳以上)を修正した長期腎生着率および生存率は死体腎移植と生体腎移植の中間に位置する好成績である。3,4,15) 移植臓器の第三の供給源として、十分な資格を備えている。
2)悪性腫瘍例16例のうち、癌の腎盂再発を認めたのは尿管癌(浸潤性尿路上皮癌)の1例のみである。4,16)
この例では、再発腫瘍の局所切除が行われ、結局、肺原発とみなされる扁平上皮癌で死亡している。尿路系に多発することの多い尿路上皮癌を含めて、再発リスクは予想外に低い。レシピエントの免疫系がドナー由来の癌細胞の再増殖を抑制する可能性がある。
3)瀬戸内グループの良性腫瘍例の1つ、石灰化嚢胞は術後に確定された最終病理診断であり、術前・術中は嚢胞化を伴う腎細胞癌が疑われていた。病理医が不在のため、術中迅速診断はできなかったが、たとえ迅速診断ができたとしても、確定診断できたかどうかは微妙である。血管筋脂肪腫の一例は、結節性硬化症を欠く両側多発例であり、ドナー腎には多発する小さな腫瘍性病変が残存していた。しかし、移植後に良性腫瘍の再増殖はみられていない。16)
4)尿管狭窄例では、当然ながら、高度の水腎症を併発し、しばしば尿路感染を繰り返している。重複尿管を合併した腎膿瘍例では、膿瘍を有する腎上極が切除されてレストアされた。こうした例でも、移植後に尿路感染は問題とならず、多くの腎臓がレシピエントで機能し続けている。移植腎の機能が保たれていれば、尿路腔内の病原体は洗い流されてしまうためであろう。みごとな経験則といえる。
5)難治性ネフローゼ症候群を呈した腎臓(微小変化群が主体と思われる)を他の個体に移植すると、腎は正常に機能し、蛋白尿が消失することをヒトで初めて証明した。ネフローゼ症候群の成因として、患者血清中のネフローゼ誘発因子の存在を裏づけたといえる。4,14) なお、1例のループス腎炎(活動期全身性エリテマトーデスの症例:ワイヤーループ病変を示し、軽度の腎機能障害を伴っていた)の腎臓は2個とも、さすがにレシピエント体内で機能しなかった。
6)ネフローゼ症候群の腎臓を移植されたレシピエント8例のうち2例に、造血器悪性腫瘍(悪性リンパ腫と骨髄異形成症候群)が合併し、直接死因となった点は示唆に富んでいる。「レストア腎」移植42件のレシピエントに悪性腫瘍を合併したのは、原発性肺癌1例と造血器悪性腫瘍2例のみであり、この2例が“免疫学的異常を背景とするネフローゼ症候群”を呈した腎臓を移植された症例に集中している。単なる偶然以上の可能性を考えたい。
レストア腎移植の日本の移植医療への貢献
広島県腫瘍組織登録データから推測すると、毎年6,660例の腎細胞癌が全国で手術されていると計算される。腫瘍径が4 cm以下のT1a腫瘍の推計値は3,210例、そのうち83%が腎全摘されるとするなら、レストア腎移植に使用可能な症例は2,664例にのぼる。半数が移植に使用できれば、1,000個を軽く超えるドナー腎の供給源となる。16) ちなみに、米国のデータでも、年間7,000例を超える小径腎癌の腎全摘手術例があると推計されている。28) 尿管癌手術(腎全摘が原則)の日本全国の推計数は2,220となり、このうちの1割程度が移植に使用可能だとすれば、200例あまりとなる。16)「レストア腎移植」が実施されると、以下のような波及効果が期待される。 まず、腎移植までの待機時間が著しく短縮される点が重要である。17年の待ち時間が数年以内に短縮されれば、現在1万1千人台にとどまっている移植希望者が増加するだろう。さらに、医療費削減効果も期待される。透析医療に比べて医療費が安くなるため、もし年間1,000例のレストア腎移植が行われ、移植腎が平均10年間機能すると仮定すれば(生体腎の平均生着年数17.9年、死体腎は11.3年)、透析関連医療費(現在、総額1兆2500億円に達している)の1.2%程度(年平均154億円)が削減されるだろう(堤試算)。16) こうして、移植までの待機時間が数年以内に短縮されれば、血液透析の在宅式持続腹膜透析(CAPD)への切り替えが促進されるだろう。日本のCAPD普及率が欧米に比べて明らかに低い(3.6%)1) 理由には、透析医療の収入の仕組み(血液透析の方が医療側の実入りが多い)に加えて、CAPDの継続耐用可能年数が平均6~7年であり、死体腎移植の待ち時間よりずっと短い点があげられる。生存率の向上に大いに貢献する腎移植は、今や、単なるquality of life向上が目的でなく、life-saving operationと位置づけられる点を再確認したい。 レシピエントの心理的負担の軽減も忘れてはならない重要なポイントである。家族からもらう健康な腎臓や死体からわざわざ取りだした腎臓でなく、病気によって治療上の必要性から摘出する腎臓が再利用されるからだ。ドナーの満足感・充足感も大いに期待される。骨髄移植ドナーと同様の心理状態であり、自分の臓器で他者を救えることに対する自然な感情である。 医療者にとっても、どうせ“捨てる”段取りの(いや、ホルマリン固定後に病理診断に提出する)腎臓を使うため、たとえ失敗しても気が楽である。移植腎は腸骨窩(側腹部)に植えるため、超音波検査などで腫瘍の再発のチェックがしやすく、異常が発見されたときに処置しやすい点もメリットの1つといえる。 病気の腎臓をとらねばならない人がいる。その“捨てる”腎臓をもらう人がいる。その間に気楽に移植手術ができる医師集団がいる。このリサイクル運動には、だれも損をしない「三方一両得」といえる関係が成立する。結果として、関係者がみな、腎移植について開放的にしゃべりだすようになるだろう。そうして、現在全く不十分な状態にとどまっている日本人の「献腎意識」が高揚することが期待される。
この論文を読むと臓器不足がひっ迫している日本において、
レストア腎移植が有効な手段かおわかりになられると思います。
堤先生も、なんだかこの委員会は最初から否定的な結論ありきだったとおっしゃってました。
あとそれとひとつ、堤先生は本当に中立な立場だという証拠に、 万波医師に対しても苦言を呈してます。
それは、インフォームド・コンセントの文書化、これは書くべきだった、と。
私も同じように思ってました。
これは、医師と患者間の信頼を得る意味でも必要だと思います。
術後において言った、言わない、の問題を防ぐ意味でも。
ですので、中立な立場の先生の論文としてこちらは参考になると思います。
※徳洲新聞2021年(令和3年)7/26月曜日
NO.1297より 詳細は
「徳州新聞ニュースダイジェスト」
をご覧ください。
徳洲会グループ
修復腎移植のレシピエント登録スタート
先進医療として臨床研究を強力推進 先進医療として修復腎移植の臨床研究を推進する徳洲会グループは、レシピエント(臓器受給者)の登録を本格スタートした。
宇和島徳洲会病院(愛媛県)が3月上旬に登録を開始したのに続き、湘南鎌倉総合病院(神奈川県)が6月末に登録をスタート。
両院はドナー(臓器提供者)から摘出した腎臓をレシピエントに移植する移植施設(兼腎摘施設)だ。 同研究には東京西徳洲会病院、南部徳洲会病院(沖縄県)、中部徳洲会病院(同)、湘南藤沢徳洲会病院(神奈川県)もドナー腎の摘出手術などを担う腎摘施設として参加。
8月からは成田富里徳洲会病院(千葉県)が腎摘施設に加わる見とおしだ。
移植医療の普及は大事ではありますが、NO.1297より 詳細は
「徳州新聞ニュースダイジェスト」
をご覧ください。
徳洲会グループ
修復腎移植のレシピエント登録スタート
先進医療として臨床研究を強力推進 先進医療として修復腎移植の臨床研究を推進する徳洲会グループは、レシピエント(臓器受給者)の登録を本格スタートした。
宇和島徳洲会病院(愛媛県)が3月上旬に登録を開始したのに続き、湘南鎌倉総合病院(神奈川県)が6月末に登録をスタート。
両院はドナー(臓器提供者)から摘出した腎臓をレシピエントに移植する移植施設(兼腎摘施設)だ。 同研究には東京西徳洲会病院、南部徳洲会病院(沖縄県)、中部徳洲会病院(同)、湘南藤沢徳洲会病院(神奈川県)もドナー腎の摘出手術などを担う腎摘施設として参加。
8月からは成田富里徳洲会病院(千葉県)が腎摘施設に加わる見とおしだ。
しかし、その前に透析、移植しなければならないことを予防する必要が一番大事です。
それには、腎臓の異常が見られた場合、
食事療法や水分補給が必要です。
腎不全を悪化させないためにも、
食事療法が必要。
透析になってからでは元に戻らない。
透析は、週に3回、5時間ほど。
これは、マストです。
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思います。
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